この歳になるまで
他人に迷惑かけたことなどない
仕事もコツコツ真面目にやってきた
浮気もしたことない
そりゃあ、女房は
少しは泣かせたかもしれないが
ほかの女を泣かせたことなどない
普通に
ごく普通に生きてきた
それなのになぜ自分だったんだ
宝くじに当たるより確率低いこの病に
なぜ自分だったんだ
どれほど悪いことしたのだと言うのだ
彼はまだ言葉が出る頃
呟くように私に語った
80歳を少し越えたある日
箸が持てなくなって
首下がりが目立つようになってきた
次第に歩行もままならず
確定診断から1年も満たずして
彼の動きはほぼ停止した
僅かに残されたのは右指と呼吸
それでもナースコールは押せず
呼吸筋も弱まりバイパップを付けている
一生懸命伝えようとしている言葉も
発声出来ず
動きの悪い口の口パクで
なかなか伝わらず
ひとつの単語を伝えるのに
20~30分は要してしまう
緑内障があるので視力も弱く
伝の心も使えず
日々
イライラしている事だろう
ほっといてくれても
老人なんだから
このまま数年で逝くのに
彼の言葉が
ずっと胸に引っかかったまま
毎日何を想い
何が楽しみで生きているのだろう
彼は気管切開を拒んだ
生き続けることを拒んだ
ギリギリで今を生きている
彼の病名はALS
わたしに何が出来るだろう
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